「90分刻みで起きると頭がスッキリする」——そう聞いてから、毎晩寝る前に計算していませんか?
夜11時に寝るなら、90分×5で7時間半後の朝6時半に起きればいい。目覚ましを合わせて、さあ就寝……のはずが、なぜか朝は頭がぼーっとしたまま。「計算どおりに起きたのに、なんで?」と首をかしげた経験、一度くらいあるのではないでしょうか。
実はその違和感、正しいんです。この記事では、「睡眠は90分周期」という常識が最新の大規模研究によってどのように覆されつつあるのか、そしてそれよりも本当に大切なことは何か、を科学的に解説します。
💡 この記事でわかること
- 「90分周期」がいつ、どのように広まったかの経緯
- 573人・16,000夜分のリアルデータが示した「本当のサイクル長」
- サイクルが人によって・夜によって変わる4つの理由
- 「90分刻みで起きると快適」説への研究者たちの見解
- 周期計算より効果的な、質の高い睡眠のための3つの視点
「90分周期」はなぜ広まったのか——1950年代の研究室の話
睡眠の90分周期説は、ある意味ではれっきとした科学的発見から始まりました。1950〜60年代、シカゴ大学のナサニエル・クライトマン(Nathaniel Kleitman)らが脳波(EEG)を使って睡眠中の脳活動を計測し、夜間にNREM睡眠とREM睡眠が交互に繰り返されることを初めて実証したのです。
その後1963年に、クライトマンが「睡眠サイクルは平均90分」という数字を広めました。この数字はその後60年以上にわたって教科書に載り続け、健康情報サイトや睡眠アプリに引用され、今日の「90分周期の常識」が生まれました。
🔑 重要なポイント
「90分」という数字は、当時の睡眠ラボで計測した被験者のデータから算出された平均値です。実験室という人工的な環境で、限られた人数から得られた数値が「すべての人に当てはまる周期」として広まってしまいました。
当時の実験は「理想的な条件」でのデータだった
初期の睡眠研究は、温度・光・騒音が管理された睡眠ラボで、健康な若い成人を対象に行われることがほとんどでした。しかし実際の生活では、人は様々な年齢・健康状態・睡眠環境のもとで眠ります。ラボのデータがそのまま「全人類の睡眠周期」として適用されるのは、かなり無理のある話だったわけです。
この点を改めて検証するため、近年になって研究者たちはより大規模な「リアルワールドデータ」の収集に乗り出しました。その結果は、これまでの常識を大きく揺さぶるものでした。
最新研究で判明した「本当のサイクル長」は90分ではなかった
ここからが、この記事を書こうと思ったきっかけでもある、最新研究の話です。正直なところ、データを見たとき「これは驚いた」と声が出ました。
573人・16,000夜分のリアルデータが示した数字
2018年、ドイツ・ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンのWinnebeck et al.が、Current Biology誌に画期的な論文を発表しました(Winnebeck et al., 2018)。573人の被験者から集めた16,000件以上の睡眠記録を、手首に装着したセンサーで取得・解析したという、睡眠研究史上最大規模のリアルワールド研究です。
その結果、睡眠サイクルの中央値は110分でした。75%のサイクルが95〜130分の範囲に収まっており、「90分」という数字はこの分布の中でむしろ下限に近い位置づけだったのです。
📊 研究データ①
Winnebeck et al., 2018(Current Biology)
被験者573人・16,000件以上の睡眠記録を解析
→ 睡眠サイクルの中央値:110分
→ 75%のサイクルが95〜130分の範囲
→ 「90分」は平均より短い下限付近の数字
2,312件のポリソムノグラフィが示した平均116.9分
さらに翌2019年、ベルギーのLe Bon et al.がPsychiatry Research誌に発表した研究(Le Bon et al., 2019)では、脳波・眼球運動・筋電図・心電図などを同時計測するポリソムノグラフィ(PSG)という精密な睡眠検査で取得した2,312件ものデータを分析しました。
結果は平均116.9分、標準偏差は39.7分。この標準偏差の大きさが重要で、ざっくり言えば「人によって77分〜157分くらいの幅がある」ということを意味します。90分はこの分布のかなり下の方の数字であり、それを「全員の周期」として使うことの無理さがよくわかります。
📊 研究データ②
Le Bon et al., 2019(Psychiatry Research)
2,312件のポリソムノグラフィを後ろ向きに分析
→ 睡眠サイクルの平均:116.9分
→ 標準偏差:39.7分(個人差が非常に大きい)
→ 「90分刻みで計算する」には誤差が大きすぎる
また2023年、バーゼル時間生物学センターのUjma et al.がSleep Health誌に発表した研究(Ujma et al., 2023)でも、369名・6,064サイクルを分析した結果、中央値は96分だったものの、個人差・夜間での変動が非常に大きいことが改めて示されました。
あなたの睡眠サイクルが「90分」ではない4つの理由
ここで「自分のサイクルは90分かもしれない」と思った方もいるかもしれません。確かに、たまたま90分付近の人もいます。ただ、それが毎晩一定かというと、そうでもないんです。睡眠サイクルは様々な要因で変動します。
理由①:夜の前半と後半でサイクルの長さが変わる
Ujma et al.(2023)の研究でも明確に示されていますが、第1サイクルは他のサイクルより一貫して短く、後半になるほど長くなる傾向があります。また夜の前半はNREM(深い眠り)が長く、後半はREM(夢を見る眠り)が長くなります。つまり同じ一晩の中でもサイクル長は変化し続けており、「90分×サイクル数」という単純計算は成立しません。
ノンレム睡眠がどのような眠りでどんな役割を果たしているかは、ノンレム睡眠とは|脳の老廃物を75%除去する驚異のメカニズムでも詳しく解説していますが、前半の深いNREM睡眠と後半のREM睡眠では脳がやっていることがまったく異なります。
理由②:年齢によって変わる
Ujma et al.(2023)では、年齢がNREM・REMの持続時間に有意な影響を与えることも示されています。加齢とともにNREMが長くなり、REM睡眠が短縮する傾向があるため、サイクル全体の構成と長さが変わってきます。20代と60代では、同じ「1サイクル」でも内容がかなり異なるのです。
理由③:睡眠負債や睡眠圧で変動する
Ujma et al.(2023)では、睡眠不足が続いている状態(高い睡眠圧)では第1サイクルのNREM睡眠が特に長くなることも確認されています。体が深い眠りを優先的に取ろうとするためです。逆に昼寝を多くした後(低い睡眠圧)はREM睡眠が長くなります。睡眠負債が蓄積するとサイクル構成が変わるメカニズムは、睡眠負債の恐怖|2晩徹夜と同じ脳機能低下でも詳しく紹介しています。
理由④:アルコール・ストレスでもズレる
アルコールは就寝後の前半にREM睡眠を抑制し、後半に反動でREM睡眠が増える「リバウンド現象」を起こします(Patel et al., 2024)。ストレスや体調不良も同様に睡眠構造を乱します。つまり「昨日の飲み会の後」「仕事でストレスがかかっている週」などは、平常時とはまったく異なるサイクルで眠っている可能性が高いのです。
🔑 重要なポイント
睡眠サイクルは「固定された90分のタイマー」ではなく、年齢・睡眠負債・アルコール・ストレスなど様々な要因によって夜ごと・人ごとに変動する、非常に個人的なリズムです。
「90分刻みで起きると頭がすっきり」は本当か?
では、睡眠アプリや「睡眠計算ツール」が推奨する「90分刻みの起床タイミング計算」には意味があるのでしょうか。ここが一番気になるところだと思います。
Sleep Health Foundationが「科学的根拠なし」と公式声明
オーストラリアの学術機関・Sleep Health Foundationは、「睡眠計算ツールは科学的な誇大広告にすぎない(The Sleep Calculator is just unscientific hype)」と明確に批判する声明を発表しています(Sleep Health Foundation, 2024)。
声明の要点は以下の通りです。睡眠サイクルには個人差があり60〜110分の幅がある、入眠にかかる時間は毎晩変わる、夜中に目が覚める回数・時間も予測できない——これらの変数があまりにも大きく、「就寝時刻から計算した起床時刻」がサイクルの切れ目に当たる保証はまったくない、というものです。
睡眠の専門医も「90分はあくまで平均値」と明言
アメリカ・マーサ・ジェファーソン病院睡眠医学センターのChris Winter医師は、「90分はあくまで平均値であってルールではない。自分のサイクルが90分より長くても短くても不思議ではないし、5分前後では体感はほとんど変わらない」と明言しています。
睡眠アプリの限界——体の動きで周期を当てようとする試み
スマートウォッチや睡眠アプリは手首の動きや心拍数から睡眠ステージを推定し、「軽い眠りのタイミングで起こす」という機能を持つものがあります。これ自体は90分固定計算よりは個人に合わせた試みと言えますが、精度には限界があります。体の動きからREM睡眠を精度よく判別することは技術的に難しく、研究用のポリソムノグラフィとの一致率は完全とは言えないのが現状です。
4つの理由
年齢・睡眠状態・生活習慣によって毎晩変わる個人的なリズムです。
計算より「7時間以上の確保」と「毎日同じ時刻の就寝・起床」を優先しましょう。
では何を目標にすれば良いのか——本当に大切な3つの視点
「じゃあ何時間寝ればいいの?」「どうすれば朝スッキリ起きられるの?」と思った方へ。研究が示す、より根拠のある3つの視点をお伝えします。
視点①:サイクル数より「総睡眠時間」と「睡眠の質」
成人に推奨される総睡眠時間は、米国睡眠財団をはじめとする各国の学術機関が「7〜9時間」としています(Patel et al., 2024)。サイクルの切れ目を計算することより、この総量をしっかり確保することの方が、認知機能・免疫・代謝への影響として科学的根拠が厚く積み上がっています。
「何時に起きれば周期の端に当たるか」を計算するより、「今日は7時間以上眠れる就寝時刻はいつか」を考える方が、はるかに実践的です。
視点②:同じ時間に寝起きする「リズムの安定」が最重要
Sleep Health Foundation(2024)も指摘していますが、毎日同じ時刻に就寝・起床することで体内時計が安定し、自然な眠気と覚醒のリズムが整います。これが結果的に「朝のすっきり感」につながる最も確実な方法です。週末の寝だめや就寝時刻の乱れは体内時計を狂わせ、睡眠サイクルの質自体を下げてしまいます。
視点③:「起床後のすっきり感」は自分の感覚で判断する
最終的に、睡眠の質の最もシンプルな指標は「起きたときに疲れが取れているかどうか」という主観的な感覚です。90分計算通りに起きても眠いなら、それはその日のサイクルや睡眠の質が計算と合っていなかったということ。逆に計算と関係なく気持よく起きられる日があるなら、その就寝時刻・環境・習慣を大切にする方が賢明です。
✅ 今日から実践できること
- 睡眠計算アプリより「7時間以上確保できる就寝時刻」を優先する
- 平日・休日ともに起床時刻をできるだけ同じにする
- 起きたときの感覚を1週間記録してみて、自分に合ったリズムを探す
- アルコールを飲んだ日は睡眠構造が乱れると意識しておく
まとめ
「睡眠は90分周期」という常識は、1960年代の研究室データが独り歩きした結果です。2018年の573人・16,000夜分のリアルワールド研究では中央値110分、2019年の2,312件のポリソムノグラフィ研究では平均116.9分と、実際のサイクルは90分より長く、かつ個人差・夜ごとの差が非常に大きいことが示されています。
「90分刻みで起床時刻を計算する」というアドバイスは、この個人差の大きさを無視しており、Sleep Health Foundationも科学的根拠がないと明言しています。
それより大切なのは、総睡眠時間7〜9時間の確保、毎日同じ時刻の就寝・起床、そして自分の体の感覚を観察すること。少しずつでも、自分に合ったリズムを見つけていきましょう。完璧な計算より、継続できる習慣の方がずっと強いです。
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よくある質問(FAQ)
Q. 睡眠の90分周期は完全に間違いですか?
完全に間違いというわけではありません。「平均的な目安」としての90分は実験室データに基づいており、一定の根拠があります。ただし実際の睡眠では個人差・夜ごとの変動が非常に大きく、最新の大規模研究では中央値110〜117分とされています。「90分ぴったり」に縛られる必要はありません。
Q. 睡眠アプリの「スマート起床」機能は意味がありますか?
固定の90分計算より個人に合わせようとしている点では一歩前進していますが、手首の動きや心拍数から睡眠ステージを精度よく推定することには技術的な限界があります。「だいたいの目安」として活用しつつ、最終的には起床後の体感を重視しましょう。
Q. 自分の睡眠サイクルを知る方法はありますか?
最も精度が高いのは医療機関でのポリソムノグラフィ(PSG)検査ですが、日常的には難しいです。睡眠日誌をつけて「何時に寝て、何時に起きたとき、どれくらいすっきりしているか」を2〜4週間記録することで、自分に合った睡眠時間のパターンがある程度把握できます。
Q. 7.5時間(90分×5サイクル)を目安にするのはやめた方がいいですか?
「7〜9時間の確保」という観点では7.5時間は良い目標です。ただし「90分×5で計算したから7.5時間」という根拠の立て方より、「自分が翌朝すっきりしていると感じる睡眠時間」を探した結果として7.5時間にたどり着く方が科学的に正しいアプローチです。
Q. 子どもの睡眠サイクルも90分ですか?
いいえ。乳幼児の睡眠サイクルは約50〜60分と短く、成長とともに大人の長さに近づいていきます。子どもの睡眠に「90分計算」を当てはめることは特に不適切です。
Q. 「深い眠りのときに起こされると辛い」のはなぜですか?
深いNREM睡眠(N3ステージ)中に覚醒すると、「睡眠慣性(スリープイナーシャ)」と呼ばれる強い眠気・思考の鈍さが生じます。この状態は30分〜1時間続くことがあります。これが「深い眠りで起こされると特に辛い」と感じる科学的な理由です。
Q. 昼寝は何分が最適ですか?
目的によって異なります。短時間のリフレッシュなら15〜20分が推奨されます。これなら深いNREM睡眠に入る前に起きられるため、睡眠慣性が生じにくいです。90分昼寝はREM睡眠まで含むサイクルが完結しやすいですが、夜の睡眠への影響も考慮が必要です。60〜75分の中途半端な昼寝は睡眠慣性が最も生じやすいため、一般的には推奨されません。
参考文献
- Winnebeck, E.C., Fischer, D., Leise, T., & Roenneberg, T. (2018). Dynamics and Ultradian Structure of Human Sleep in Real Life. Current Biology, 28(1), 49–59. https://doi.org/10.1016/j.cub.2017.11.063
- Le Bon, O., Lanquart, J.P., Hein, M., & Loas, G. (2019). Sleep ultradian cycling: Statistical distribution and links with other sleep variables, depression, insomnia and sleepiness—A retrospective study on 2,312 polysomnograms. Psychiatry Research, 279, 140–147. https://doi.org/10.1016/j.psychres.2018.12.141
- Ujma, P.P., et al. (2023). Ultradian sleep cycles: Frequency, duration, and associations with individual and environmental factors—A retrospective study. Sleep Health. https://doi.org/10.1016/j.sleh.2023.09.007
- Patel, A.K., Reddy, V., Shumway, K.R., & Araujo, J.F. (2024). Physiology, Sleep Stages. In StatPearls. StatPearls Publishing. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK526132/
- Sleep Health Foundation. (2024). The ‘Sleep Calculator’ is just unscientific hype. https://www.sleephealthfoundation.org.au/news-and-articles/the-sleep-calculator-is-just-scientific-hype
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